| 賃金の切下げ Q.会社の経営上の必要性から、就業規則を変更して従業員の賃金を切り下げる場合、従業員との関係では配慮すべきことは何か。 A.企業間競争や組織再編など企業の経営環境が激変する中で、企業は合理化対策の一環として労務費の削減を図るため賃金の切り下げを行う場合があります。 まず、賃金は、労働契約の重要な要素であり、使用者が一方的に引き下げることはできません。 次に、労働者の明確な同意がある場合には、就業規則や労働協約に反しない限り、賃金の切り下げも認められます。 異議をとどめずに一方的に減額された賃金を受領した場合に黙示の同意が認められるかについては、労働者の自由な意思に基づいていると認められる合理的理由が存在している場合に限り有効と解されます。 次に、就業規則や労働協約などを通じて賃金制度そのものを改定し、賃金の減額を行うことがあります。 この場合、労働条件の集合的な処理という観点から、個別労働者の同意を経ることなく変更でき、就業規則や労働協約の不利益変更の合理性の問題として扱われます。 就業規則の変更には、経営危機等の高度の必要性に基づいた合理的な理由が必要とされています。 合理的な理由の有無について判断するに際しては、使用者側における変更の必要性の内容や程度とその変更により労働者が受ける不利益の程度との比較考量を基本とし、変更後の内容自体の相当性、経過・代償措置や関連するその他の労働条件の改善状況、変更手続の相当性、世間一般の状況などを総合的に考慮することが必要なものとされています。 特に、変更手続の相当性の判断では、使用者が不利益や変更の必要性などを労働者に十分説明しているか、経過・代償措置や関連するその他の労働条件の改善等の話し合いを労働者との間で十分おこなっているかなどの状況が考慮されますので、使用者は変更するに当っては労働者の利益との調整に十分配慮する必要があります。 就業規則による不利益変更にその合理的な理由が認められ例外的に可能となる場合であっても、使用者は労働者の合意が得られるよう努めることが望ましいとされていますので、賃金切り下げの理由を十分説明するとともに労働者の利益との調整に努める必要があります。 これに対して、就業規則による不利益変更にその合理的な理由が認められない場合、労働者は変更後の就業規則に拘束されず、変更前の就業規則に基づく権利の行使ができるものとされています。 この場合、就業規則の変更前に既に働いた分の賃金の減額・控除は、既発生の賃金債権を放棄する意思表示が労働者の自由な意思に基づくものであることが明確に認められる場合を除き、全額払いの原則に反し、労働者はその減額・控除分を未払賃金として請求することができると解されています。 なお、一般に、降格を含めた使用者の人事権の行使は非常に広範に認められていますが、職能資格制度の下においては、職能資格・等級の変更が賃金の変更につながるため、人事権を基礎付ける就業規則・労働契約・合意などの法的根拠に基づく一定の制約を受けると解されます。 |